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久富さん一家の「おでん屋さん」

ていねいに手をかけた
だしやポン酢が味わいの決め手

ていねいに手をかけた
だしやポン酢が味わいの決め手

友人たちが集まる食事会で、冬の定番は 「おでん」。
料理じょうずなお母さまがこしらえるやさしい味わいは、やってくる皆の、長年変わらない楽しみだといいます。

久富さんのお住まいは昨年夏に完成したばかり(掲載当時)。風情のある壺や掛け花入れを飾った玄関を入れば、気持ちのいい木の香が漂います。
奥さまの直子さんに招じられて2階に向かうと……なんとLDの入口には「おでん 久富」の墨文字が書かれた真っ白なのれんが!本物のお店に入るかのような粋なしつらいに心が浮き立ちます。

キッチンの手前にはお品書きの短冊も貼ってあります。大根、つみれ、卵、こんにゃく、ごぼう巻……。「おまかせコースのみになります」「カード不可」、そしてお値段は「時価」。全部、書道を習っている小学6年生の理子さんが書いてくれたものです。

LD への入口に掛けたお店のようなのれんに気分も高まります。

キッチン入口に貼られたお品書きの短冊。本日のおでん具材がきちんと書いてあります。

「今回のいちばんのヒットは“時価”の文字かな。お支払いになれないと翌日に請求書を回しますよ〜」
笑いながら話すのは調理を担当した深川紗智さん。直子さんのお母さまです。

もちろん“時価”は楽しいジョーク。お邪魔したのは、季節の恒例イベントとして直子さんの学生時代の友人たちが集まる食事会の日です。夏にはカレーやパエリアなど時によってメニューを変えますが、冬はおでんパーティが定番なのだとか。

うっとりするようなテーブルセッティング。やきものは紗智さんがおつくりになったものばかり。大鉢に氷を敷いて、日本酒を入れたとっくりや杯を冷やしています。

久富さんを推薦してくださったのは、6号で登場いただいた大久保ろりえさんです。
偶然、共通のご友人があり、どちらも伊佐ホームズで家を建てたと知って親しく行き来する中で久富家の料理のおいしさを知ったのだそうです。ふだん、洋食は直子さん、和食は紗智さんがこしらえています。

紗智さんは高知県四万十市の料亭の生まれで、東京に出てからは銀座で割烹を経営していました。舌の確かさは言うまでもありません。直子さんが18歳くらいの頃から友人たちが家に集まり、紗智さんの手料理を楽しむのはいつものことでした。
「それがそのまんま続いているんです。飲んで、食べて、わいわい話すの。みんないい大人になっても、ちょっとずつ母に叱られる話を持ってくるんですよ」と直子さん。

紗智さんの作品。新聞の折り込み広告を使った立体作品。

陶芸教室で手ほどきを受けたというやきものは、いまや展覧会を開催するほどの腕前です。

エネルギッシュな紗智さん。

友人の輪が広がるにつれて参加者は増え、最大では28人も集まったことがあるそうです。この食事会で知り合って結婚したカップルは2組も!おでんパーティもひと冬に3〜4回は行っています。
「前の家では、玄関に“おでん久富”ののれんを出してたら、見知らぬ人が入ってきたこともあったよねぇ」と楽しそうに話す紗智さんの言葉も、なんともおおらか。

こちらは1階にある紗智さんの個室。アーティスティックな作品がそこここに飾られています。

さて、キッチンには大鍋2つとフライパン2つにことこととおでんが煮えています。練り物は市販品を使いますが、大根や卵、油揚を使った「袋」などは下ごしらえしています。

いちばんのポイントは前日から引いただし。厚い利尻昆布を10人分なら60センチくらいは使います。だしを取った後の昆布は佃煮などにするのでむだはありません。

「おまかせコース」 の最初の一皿はこんなふう。おかわりの声があるたび、お母さまの紗智さんが来客の好みに合った具材を皿に盛ってくれます。

薬味をふんだんにのせて特製ポン酢をかけたら、てのひらで叩いてなじませるのがこつ。

「関東風におしょうゆを多く入れる濃い味でなく、味付けは塩メインの薄めで。後は具から出る味でおいしくなるの」
話しながら紗智さんは、かつおのタタキの準備に取りかかります。

大皿に並べ、大量の薬味を乗せると、自家製ポン酢をかけて手のひらでポンポン。
「こうやって叩くからタタキなのよね」 まさに本場・土佐でのやりかたです。
「味がしみた頃がおいしいの。シメにお茶漬けで食べる人もいるし。和風カルパッチョです」と紗智さんが言えば、直子さんも「つくった翌日はもっとおいしいんですよ」

宴会前にご相伴させてもらいました。器は玄関の壺や花入れ同様に紗智さんのお手製。おでんもタタキも、皿に残った汁まですっかり飲み干せるやさしいお味です。このおいしさが人と人をつなぎ、和やかな場をつくっていくのでしょう。パーティを楽しみに待つファンが多いのもうなずけます。

周囲を笑顔にしてくれる直子さん。

私たちも、ご自慢の味を堪能させていただきました。壁には、フジコ・ヘミングや棟方志功の作品が飾られています。

おでんの具材はお好みで。タタキのポン酢の配合は紗智さんの弟さんがつくったもので今回は秘密です。
「飲んでもおいしいくらい」を見当に、ぜひ工夫してみてください。

—『伊佐通信』8号(2017年)より転載—
※内容は掲載時のものです

おでん

材料(10人分)
  • だし(利尻昆布、鰹節、日本酒、塩、しょうゆ)
  • 大根、卵、こんにゃく、袋(油揚げ、とりひき肉、にんじん、ごぼう、餅)、つみれ、ちくわ、ごぼう巻、木綿豆腐、はんぺん、牛すじなど適宜
つくりかた
  1. 大鍋に入れた水にたっぷりの日本酒を加え、利尻昆布と鰹節を浸して 1 回火を入れたら、8時間くらい放置しておく。
  2. 油揚げに熱湯をかけて油抜きし、半分に切って袋状にする。細切りのにんじんとごぼう、とりひき肉、餅を入れて口を楊枝でとめる。
  3. 輪切りにして皮をむいた大根は、米少々を入れた水で竹串が通るまで茹でる。卵は茹でて殻を取る。コンニャクは食べやすく切って下茹で。練り物類は湯通ししておく。
  4. 1 のだしから昆布と鰹節を取り出し、塩と少々のしょうゆで薄味に調味する。
  5. 具を入れて弱火で味がしみるまで煮る。はんぺんだけは、食べる直前に入れる。

かつおのタタキ

つくりかた
  1. 玉ねぎは縦薄切り、細ねぎは小口切り、大葉は細切りにしてたっぷり用意する。そのほか、にんにくは薄切り、みょうがはみじん切り。仏手柑(なければスダチ)は皮をすりおろす。
  2. タタキ用のかつおサクを1cmくらいの厚みに切って大皿に並べる。
  3. 玉ねぎ、細ねぎ、大葉を、かつおが見えなくなるくらいのせて、さらにみょうが、にんにく、すりおろした仏手柑の皮を散らす。
  4. ゆず果汁・濃口しょうゆ・薄口しょうゆ・塩を混ぜてつくったポン酢を回しかけ、手のひらで全体を押さえてなじませる。