長年の夢がみごとに実現、楽しいから“帰りたくなる”家。
「入母屋風住宅」

冨岡幸生さん、洋子さんご一家を訪ねて
冨岡幸生さん、洋子さんご一家を訪ねて
ところが中に一歩入れば、目を瞠るアイデアがいっぱい。それはようやく叶えられた、奥さまの夢の結晶です。
「家での時間がほんとうに楽しい」と話すご夫妻にとって、家づくりの過程も、うれしい驚きの連続でした。
冨岡邸にうかがったのはお昼どき。昼食をご一緒にとのうれしいお話でした。
来客用の玄関から入り、まずは雅やかな和室でお庭を拝見。奥さまの洋子さんが「ここは『桃山の間』って呼んでいるの。ピンクのからかみが桃山っぽいでしょ?」と、楽しげに話してくれます。大きな和箪笥や床の間の九谷焼も素敵です。

庭を楽しむ1階。平瓦を敷いた土間をへだて、手前に「桃山の間」、奥側はリビングへの階段がある小上がりです。囲炉裏には洋子さんが以前から持っていた自在鉤も。
「さぁ、2階でうどんを用意してますから、いつでも上がってきてくださいね」
でも階段はどこに……?すると突然、土間の突き当たりにある漆喰壁がクルリ!回転した壁の後ろから再び洋子さん登場。なんと、どんでん返しのからくり扉になっているのです。
「2階にはここからどうぞ!」
びっくり仰天の私たちを見る洋子さんの笑顔の、なんとも楽しそうなこと!
からくり扉の向こうにはさらに驚きが待っています。「桃山の間」とは雰囲気も一変。大きなビリヤード台やバーカウンターのあるスヌーカールームです。ウィリアム・モリスの壁紙をめぐらせた、ほの暗くもコージーな空間はまるで外国映画のワンシーンを思わせるようです。

1階のスヌーカールームは、ウィリアム・モリスの壁紙を使い、イギリス伝統のスタイル。バーカウンターもあります。
隅のらせん階段を上がればダイニングキッチン。大きな鍋を前に、幸生さんが慎重な面持ちでうどんを茹でています。香川県といえば讃岐うどんの地。
「大鍋で茹で、水で一気に締めることが大事。このキッチンはシンクも大きく、10人分くらいラクにつくれますよ」と幸生さん。
前夜から仕込んだというツユでいただくザルうどんは、まさに絶品です。

シンプルにつくった庭も和の風情。以前の家の瓦も生かしています。

2階バルコニーは犬たちの遊び場。
奥さまの夢だった
忍者屋敷風のカラクリ
「忍者やお城、古民家が大好きで。大人になってからもあちこちの忍者屋敷を訪ねては、こんなカラクリのある家に住めたらいいなぁと思っていたんです」
30年ほど前に初めて住まいを建てた時は、設計士と意見が合わず、思いは通らないまま。もちろんカラクリなど申し出ることもできませんでした。次いで幸生さんのクリニックを建てる際も、戦いの連続。
「自分たちの理想をそのまま叶えることはできない。家づくりとはそういうものなのかと思っていました」

1階「桃山の間」とスヌーカールームを仕切る壁は、背中を預けて軽く押すとクルッと回転。その姿は現代の「くの一」?
その後は親類から引き継いだ中古住宅に住んでいたのですが、老朽化も進み、5年ほど前にはいよいよ建て替えを考えるようになりました。今度こそ憧れのどんでん返しや隠し階段のある家に……との思いをつのらせた洋子さん。でも、夢を実現できそうなメーカーはなかなかみつかりません。
「そんな時、いつも読んでいた『芸術新潮』で伊佐ホームズを知ったんです。ここならもしかして……と感じるものがあって」
高松は東京から遠いし、カラクリなど一笑に伏されるかもとは思いつつも、駒沢住宅を訪れたところ、
「設計の福井さんが、ぜひやりましょうと言ってくれて。うれしかったですねぇ」
生き返ったコレクション
この家では多くのたいせつな品々が日の目を見ることができました。

建て替え前の家にあったステンドグラスも2階廊下の窓に。

幸生さんの実家にあった兜は、洋子さんの曾祖母の箪笥の上に。

木製の火鉢は沈金と螺鈿の装飾がきれい。幸生さんが子どもの頃、実家で使っていたものです。

ご夫妻がコレクションしている福島武山の器。季節に合わせて選び、「桃山の間」に飾ります。
たくさんの希望を叶えた
宝物のような家に
打ち合わせを進める中で、住まいへのイメージもどんどんふくらんでいきました。うどんが茹でやすいキッチン。家族の思いを込めたスヌーカールーム。海外からの来客が滞在できる客間。大型犬を屋内に回遊させつつ、応接の場とは分離させた間取り。愛犬用のシャワー付きケンネル……。
2年半前に完成した住まいには、もちろん念願の隠し階段も実現。3階への階段の途中には小さな障子窓もあります。
洋子さんは「窓の向こう側は武者隠しの間。階段を上がる敵の足元を切りつけるの」といたずらっぽく笑いますが、いえ、ほんとうは寝室に隣接する書斎コーナーです。

リビング裏手にある隠し階段。収納と見紛う扉を開けると……。なんと3階フリールームに上がる階段が隠されていました。途中に「武者隠しの間」の小障子も。プランを練る際は戸隠の忍者屋敷に行って確認してきたそう。
この家では来客は「桃山の間」や滞在用の「群青の間」で和の風情に親しみ、スヌーカールームではビリヤードやお酒を楽しみます。1階小上がりの囲炉裏では、お餅やきりたんぽを焼くことも。そして家族のリビングでは3匹の愛犬たちがゆったり。
「外からは見えない宝物を抱いているような家」と洋子さん。幸生さんも「家づくりの楽しさを初めて知りました。とても落ち着くし、帰りたくなる家です」と話します。

家族のリビングでは3匹の愛犬も自由に過ごせます。
5人のお子さんは独立し、ふだんは2人暮らしのご夫妻。じつは次の計画も進行中です。伊佐ホームズでこの夏、軽井沢に家族が休日に集う別荘を建てるのです。
「浴室はまわりの森に合うエメラルド色のモザイクタイルに」というのがお嬢様の希望。楽しみはますますひろがっていきます。
特注&手づくり

襖のからかみや引き手は、ショールームに行ってセレクト。「桃山の間」は鶴の引き手。「群青の間」では群青色のからかみに引き手は千鳥。

銅でつくった家紋を釘隠し風に。

冨岡家と洋子さんの実家の家紋を焼き印にし、囲炉裏の蓋にも捺しました。

ケンネル入り口に貼ったタイルは愛犬たちの名前。
—『伊佐通信』3号(2014年)より転載—
※内容は掲載時のものです