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安藤公一さんの「野菜のあさ漬け」

旬野菜を彩りよくおいしい漬けものに
「玄関と庭を囲む 二世帯の家」施主

旬野菜を彩りよくおいしい漬けものに
「玄関と庭を囲む 二世帯の家」施主

安藤さんはもともとお漬けもの製造会社のご主人。
悠々自適の今も、自宅でささっと手づくりする漬けものは、プロならではの味わいで、知人たちにも大好評です。
「今日の朝、漬けといたのがあるんだ。食べてみる?」
お住まいにおじゃまするなり、さっそくうれしいご提案です。キッチンに向かった安藤公一さんは、冷蔵庫からビニール袋を取り出し、中に入っている野菜をぎゅっ。
「ちょっと塩が強めだけどね、絞るとちょうどいいんだ」

横に立つ奥さまの美枝子さんは、
「私はね、結婚してから一度もお漬けものつくったことないの。いつも主人がこうしていろいろつくってくれて。幸せよ〜」。

同居するお嫁さんに借りたという備前の皿に、こんもり盛られた浅漬けは彩りも鮮やか!見るからに食欲をそそります。
「今日はかぶをメインにしたんだ。かぶときゃべつを一緒に食べてごらん。きゅうりと大葉というのもいいよ」

「塩はレシピで小さじ何杯というのではなく、まさに塩梅で決める。野菜に塩がまんべんなくなじむようにしてあげるのがコツ。自分でいろいろ試してみることだね」

さっそくいただくと、かぶはしっとり、きゃべつやきゅうりはパリパリ。大葉やみょうがの香りも絶妙です。粗糖入りのレモン汁をちょっとかけると、また風味も深まって……。これはお箸が止まりません。

公一さん・美枝子さんご夫妻のダイニングは、対面キッチンの明るい空間。伊佐ホームズで提案したジョージ・ナカシマのダイニングセットはおもてなしにも活躍しています。

かつて世田谷や練馬には漬けもの屋さんがいくつもあったといいます。公一さんが世田谷区松原で昭和57年まで営んでいた松直商店もそのひとつ。農家だった曾おじいさまが、とれた野菜を漬けものにして売ったのがはじまりだとか。お父様の代から製造問屋として関東一円の農家と契約、奈良漬けや沢庵をつくって販売していました。仕込みシーズンには各地から職人たちが来て、泊まり込みで働いていたそうです。

漬けもの工場で職人たちが働いていたころの写真も見せていただきました。公一さんのお父様の代のもの。

茄子やきゅうりの1本漬け、沢庵、奈良漬などで定評だった松直商店。白漬沢庵漬では受賞もしています。

子どものころから仕込みを手伝い、やがて家業を継いだ公一さんでしたが、地域的に工場建替えが難しかったことから継続を断念。けれども漬けものづくりへの愛情は変わらず、今も日々の食卓に並ぶ漬けものはもちろん、毎年数十キロもつくる白菜漬けを楽しみに待つ人も大勢です。
「八百屋でめずらしい野菜を見ると、どう漬けたらおいしいかやってみるのがおもしろい。なんでもそうだけれどね、自分でいろいろ試してみないとね」

ゆったりとした芝の庭を、縁側から眺めるのがご夫婦のお気に入り。庭木は公一さん自身で剪定しています。

2世帯で使う広い玄関。トップライトで明るく、ちょっと腰掛けられる変形ベンチもお客様に好評だそうです。

漬けものには塩は欠かせません。塩の浸透によって素材から水分が上がるのを、適度に補助するのが重石の役目。
「どれだけ早く水を上げるかが肝心なんです。そのために樽で漬けるときはすき間なく詰めるの。昔は、白菜も沢庵用の干し大根も、樽を逆さにしても落ちないくらい詰めないと怒られたもんです」

松直商店には大量の漬けもの石があり、乗せる数で重さを調整していたといいます。その石は今は、敷地のぐるりを囲む石垣に。2年前に伊佐ホームズで建てた二世帯住宅の、シンプルな和の佇まいとの取り合わせも気に入っているそうです。

庭を囲む石垣は、かつて工場で使っていた漬けもの石を活用。数百個を公一さんのお父様がご自分で組んだそうです。

庭には梅の実もたわわに実ります。これも、公一さんの手でおいしい梅干しに。

こちらはなんと15年前に漬けたという梅干しです。ていねいに3日3晩干したからこそ、皮もやわらかく、実に美味。

ところで家庭用には重石代わりに、バネなどがついた漬けもの器もありますが……。
「無理やり押して水分を絞り出してはダメ。浅漬けなら重石なしでいい。塩加減は素材によるので適当にとしか言えないけれど」
浅漬け以外の漬けものも、塩で下漬けし、水分が抜けてから別の味を浸透させます。

「どういう味が合うか考えるのも楽しいよ。家でつくるのにラクなのはめんつゆだね」
出していただいた2皿目のお漬けものは、チンゲンサイと小松菜、パプリカ。厚みがあるので軽く重石をして下漬けしてから、めんつゆで漬けたものです。これがまたおいしい!それぞれの味がしっかりと際立ち、同じ漬け汁とは思えないほど。白いご飯や冷酒のお供に最適です。

プロでこそのお漬けものの極意、ぜひみなさまもお試しを!

チンゲンサイ、小松菜、パプリカのめんつゆ漬け。お酒によく合う、ちょっと濃いめの味にしているそう。

—『伊佐通信』5号(2015年)より転載—
※内容は掲載時のものです

野菜のあさ漬け

材料
(野菜の種類や分量はお好みで)
  • きゃべつ
  • きゅうり
  • かぶ
  • ラディッシュ
  • みょうが
  • 大葉
  • レモン
  • 粗糖
つくりかた
  1. 野菜は洗ってザルに上げ、水気を切っておく。
  2. きゅうりは8㎜くらいの厚さの斜め薄切りにする。
  3. かぶの実は皮をむき、厚さ5㎜くらいの輪切りに。葉はざく切りにする。ラディッシュも同様に実を輪切り、葉はざく切りに。みょうがはせん切り。大葉も太めのせん切りにする。
  4. きゃべつは包丁を使わず、手でひと口程度の大きさにちぎる。その方が塩のなじみがよくなる。
  5. 全部の野菜をボウルに入れ、塩を振る。塩の量は少なめにして、足りなければ足せばよい。きゅうりの塩もみをつくる感覚で。
  6. 全体を手でざっくりと混ぜ、塩をよーくなじませる。
  7. ビニール袋に入れ、なるべくすき間がないように口をしばり、冷蔵庫の野菜室に1時間以上(長くて1晩)置いておく。
  8. 水分を絞って皿に盛る。