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画家 山内龍雄

見つめて、削ぎ落とす
「存在」を描いた画家

見つめて、削ぎ落とす
「存在」を描いた画家

なんとしても多くの方々に作品をご覧いただきたいと、社長・伊佐裕が思いを寄せている画家がいます。3年前(2017年掲載時)に63歳でこの世を去った山内龍雄です。

伊佐が山内の作品に出会ったのは1年あまり前のこと。平成27年11月5日の産経新聞文化欄でした。山内の回顧展の紹介記事が目に止まり、写真掲載された絵画「不変の存在」を見た瞬間、激しく心を打たれました。

長い間ほとんど無名の画家で、名前も、作品も伊佐はそれまでまったく知りませんでした。「ここまで強く、絵の中に自分の魂との縁を感じたのは初めてでした」と振り返ります。山内の画業を支えてきた須藤一實さん(ギャラリー・タイム代表)にすぐに電話し、その日のうちに手紙を書いて感動を伝えました。

初めて山内の絵に触れたときの感動を語る伊佐裕。

産経新聞の記事と、須藤さんにあてて書い た手紙のコピー。「魂の永遠力を感じます。」と記した。

山内龍雄は、昭和25年に北海道厚岸町で生まれました。21歳のときにはじめて絵筆をとり、終生独学で描き続けました。開拓者だった父が建てた家で製作のために生きたといいます。

作品は一貫して「自分の足許」で、自分の身の回りのものや情景を対象としました。「具象的な対象を深く見つめることで、極限まで削ぎ落とされた『存在』そのものが表われているのを感じます」と伊佐。

製作手法も普通の油彩画とは反対で、キャンバスに置いた油絵具を数年がかりで削り込んでいくという独自のものです。この表現が、対象との間に深い奥行きを生み、多様な時間と空間が立ちあらわれるといいます。

北海道上尾幌にあった、 山内の生家。
写真提供 /ギャラリー・タイム

Work 2005 / 90.9×90.9cm / oil on canvas
写真提供/ギャラリー・タイム

昭和59年、山内は前述の画商の須藤さんに出会いました。作品に深い感銘を受けた須藤さんは「一輪車を持てる人」を買い取り、二人の交流が始まりました。

須藤さんは山内の作品を紹介し、世に広めることを決意して、昭和63年にギャラリー・タイムを設立。以降、毎年展覧会を開き、画業と生活の両面から山内を支援し、山内は絵に専念して須藤さんの期待に応えていきます。

平成19年以降はオーストリアとドイツでも展示会を開く道を開き、高い評価を受けました。ところが平成25年に山内は急逝してしまいます。

山内の作品を常設展示する場所をつくり、後世に残し伝えるために、須藤さんは出身地の神奈川県藤沢市にギャラリー・タイムを移転し、その隣に「山内龍雄芸術館」を建てました。オープンは平成28年4月16日。伊佐はこの日を心待ちにしていました。当日、絵の前に立った瞬間に涙が溢れたと言います。

「永遠の一瞬を感じたときに、人は感動するのでしょう。須藤さんがいたからこそ、山内は描き続けることができたのでしょう」

山内龍雄芸術館
神奈川県藤沢市羽鳥5-8-31
tel. 0466-33-2380
開館日など詳細は公式サイトをご確認ください。
http://www.yamauchitatsuo.net/

代表作「老賢者と少年」ができた日/アトリエにて 1992年
写真提供/ギャラリー・タイム

『伊佐通信』8号(2017年)より転載
※内容は掲載時のものです