久住謙昭さん
令和元年竣工 日蓮宗宗門史跡 妙法寺
住職 久住謙昭さん
令和元年竣工 日蓮宗宗門史跡 妙法寺
住職 久住謙昭さん
開創700年を超える古刹を明るく開かれた場にし、
宗派を超えて誰もが訪れられるよう。
革新を続けてきたお寺の仕上げとしてのリフォーム
横浜市にある妙法寺は日蓮聖人の最初の弟子・日昭聖人が開き、714年もの歴史を刻むお寺です(2020年取材)。おだやかな笑顔を絶やさない久住謙昭さんは47代目ご住職。14年前に御父上の急逝で後を継いで以来、“宗派を超えて開かれたお寺” “今を生きる知恵と勇気をともに学び歩むお寺”として、さまざまな取り組みを進めてこられました。
「継いだ当時は檀家さん方のことも何もわからなくて…。それでアンケートを送って、それぞれの家のことを教えてもらっんです。最後にお寺への要望や不安に思われていることも書いていただきました」
そこでわかった要望は、墓所を継ぐ人がいないから永代供養塔をつくって欲しい、境内にトイレが必要、ペットのお墓があるといい、正座がつらい、本堂が寒い、などなど。久住さんはその一つひとつに応え、同時に、他宗派の僧侶も講師に招いての法話会、ワークショップ、イベントなども開催してきました。
「そして最後に私自身の希望をかなえようと、受付と寺務所のリフォームを考えたのが2年前でした。受付は『人生のコンシェルジュ』『かかりつけのお寺』を目指して、誰もが立ち寄れる開かれた和の雰囲気に。一方、寺務所は、アニメの『エヴァンゲリオン』に出てくるネルフ基地風にしたくて(笑)」
けれど実現できる方策がなく、困っていた時に、たまたま手にされたのが伊佐裕の著書『和なるもの、家なるもの』だったそうです。
「ああ、この人だ!と、仏教の勉強会でお会いする早稲田大学の椎野潤先生を通してご連絡し、『駒沢住宅』や『田園都市の家』にうかがってお願いしようと決めました」
緊張感を保ちつつも気軽に訪ねられるお寺に
いま、古刹の趣あふれる山門をくぐると、本堂の右手に全面にガラスの開口を設けた明るい建物があります。かつては小さな引き戸の玄関しかなかったのですが、これなら気後れせずに入れそう。暖かい季節には、ガラス戸はすべて開け放たれます。
中は落ち着きのある土壁の空間。壁をどうするか迷っていた時、同じ苗字の左官・久住有生さんの仕事の美しさを知り、数年待つことも多いと聞きつつもご住職が会って依頼したのです。
「静謐で心地の良い緊張感のある場にしたかったんです。だからなんとか久住さんに頼みたい。ダメでもいいから、自分の思いをぶつけてみようと」。400年伝わる大黒様を安置する、多くの人のための特別な場所であることが、承諾の鍵となりました。
メインの壁は、左官の最高峰、黒漆喰磨き押さえに。受付のカウンターはお手持ちのケヤキ一枚板を。下部は検討の末、設計担当の荻敬二とインテリア担当の金子京子が高岡まで出向いて、仏具に使われる伝統技法を応用した着色銅板を依頼しました。
大きな白河石の沓脱石から上がり、新しくなった寺務所をのぞかせていただくと…、まさに基地でした! 桜の無垢材の内装や家具に囲まれた中、各デスクには 面ずつのディスプレイがあり、壁面には敷地内カメラの映像などが映る大型モニターも。小屋裏へは階段をつけて大型収納スペースにし、寺務所奥の厨房も広くなりました。
「皆が楽しく仕事をできる場にしました。私たちが心豊かでなければ、いらっしゃる方たちを穏やかに迎えられませんから」
完成まで幾度となく重ねた対話はとても楽しい時間だったと荻は振り返ります。「私はイメージしか言えませんから」と久住さんはおっしゃいますが、具体的で豊かなお言葉のおかげで、多くのご提案ができました。
「檀家さんたちにも、とても好評なんですよ」と久住さん。宗派を問わず、どなたでも参加できる法話会「浄心道場」も定期的に開催なさっています。新しいお寺の姿を感じに、訪れてみてはいかがでしょうか。
—『伊佐通信』12号(2020年)より転載—
久住謙昭(くすみ・けんしょう)
昭和51年、第46世住職謙是上人の長 男として生まれる。平成8年第2期信 行道場終了、日蓮宗僧侶の資格を得 る。平成11年立正大学仏教学部卒 業。平成14年同大学院文学研究科修 士課程修了。平成19年妙法寺第47世 の法燈を継承し、住職となる。平成 27年未来の住職塾第3期卒業。一般 社団法人 みんなの仏教 代表理事。