自分たちには使いづらい家を
仕事場も確保した快適な空間に
この家を訪れて、リノベーションだと思う人はまずいないでしょう。
北欧家具がセンスよく置かれた明るいLD、モミジがそよぐ小さな庭、2階へ上がるとギャラリーのような前室に細長い仕事場。クリエーターご夫妻の家というのも納得です。
じつはこの家、ふたりが縁あって引き継いだ、ある注文住宅メーカーが建てたものでした。
当時築4年ほどとまだ新しく、とくに不具合もありません。
しかし、リビングがない、DKが北側にあって暗い、水回りの動線がよくない、仕事場にできるスペースが取りにくいなど、アーティストとデザイナーのお二人には住みづらい間取り。そこで、伊佐ホームズにご相談をいただくことになったのです。
「できるだけ費用をかけずに」というのもご要望のひとつ。設備配管の位置など既存部分を極力生かしてリノベーションすることになりました。
キッチンを南側に移動し
ひろびろとしたLDも実現
1階で最も大きな変更は、北側のキッチンを和室と洋室に分かれていた南側に移動し、ゆったりとしたLDを確保したことです。
広いスペースを確保したことで、好みの家具を配置することが可能になりました。引き出しの前面や側面に錆をほどこした鉄板を使ったAVボードはご主人が制作したもので、すっきりと端正なデザインです。
床と壁は全面的に張り替えました。広い窓からは庭の景色も眺められます。北側のDKがあった部分は、クローゼット付きの予備室になりました。
また、以前はDKからしか入れなかった洗面室や浴室への動線として廊下を新設。玄関を入ってすぐ、トイレの存在を感じることがないよう、出入り口の向きも変えています。狭くて急勾配だった2階への階段は、少し延ばすことで緩やかにしました。
和室を撤去することで
友人たちも集える明るい空間へ
新設したキッチンは、LDとの間に壁もないオープンなつくり。家事をしながら南側の庭を望むことができ、人が集まるときもなにかと便利です。
ステンレス天板のシステムキッチンは、清潔感や掃除のしやすさ、収納力を考えて選択しました。
洋室と和室をつなげるに当たっては、2階への通し柱は残す必要がありました。今はダイニングテーブルの横に立つ柱です。白く塗装し、むしろ室内のアクセントになっています。
2階は元のかたちを生かしつつ
お二人のワークスペースを増築
元の間取りでは、2階には2つの洋室とトイレがありました。しかしご夫妻とも家で取り組むことの多い仕事。どこにワークスペースを設けるべきか検討した結果、LDの上にお二人の書斎を増築することにしました。
北側の洋室は、当初は息子さんの部屋でした。じつはここで伊佐ホームズが行ったのは天井のライティングレールの設置だけ。あとは息子さんが既存の床の上にコルクの床を貼り、本棚をデザインし、制作したそうです。独立した後は、ご主人のアトリエとなりました。
南側の寝室は、クローゼットもつけて使いやすくなりました。トイレ前にはご要望いただいた洗面手洗い場も設けています。
新設した書斎では夫妻並んで
それぞれの仕事に集中できる
増築した書斎は、細長い空間です。ここの本棚と机もご主人の手によるもの。本棚は上段と下段で奥行きが違い、機能性とデザイン性が両立しています。
既存のバルコニーは書斎の外壁とつなげて高い壁で囲うかたちにしました。外観をすっきりさせ、カーテンなしでも外から見られることがありません。高い位置から光が降るバルコニーとその前室は、小さなギャラリーのようです。
黒塀で囲んだ小庭は
緑に触れるプライベートな場
広い庭の半分はカーポートに。もう半分はウッドデッキを備えた小庭とし、黒い板塀で囲みました。
既存構造を生かしながら
スマートで都会的な姿へ
窓の位置を変更すると外壁にも手を入れることになるなどコストがかかるため、極力そのままとし、サッシも既存を生かしています。
外壁にはほとんど手を入れず、増築した部分のみグレーの外壁を1階までつなげ、キューブ状の都会的な印象をつくり出しました。
玄関部分にもくふうがあります。
もとの建物では、道に面した玄関扉を開けるとホールやトイレの扉まで丸見えでした。そこで玄関前に木製格子のスクリーンを建て、緩やかな目隠しに。
ドアやタイルも落ち着いた色調のものに替え、クリエーター夫妻に似合うモダンな雰囲気になりました。
「手を入れるべきところと、そのままにしておくところのメリハリをうまくつけていただきました」と話すお二人。
「迷っている人には、ハードルが高いと思わずに伊佐ホームズさんに一度相談してみるといいですよ、と伝えたいです」と、うれしい言葉もいただきました。
建築データ
【所在地】東京都世田谷区
【工事期間】平成25年4月〜7月
【構造】木造2階建て
【延床面積】120.07m² (36.32坪) ※増築面積11.59m² (3.50坪)含む
[平成27年5月撮影・取材(令和5年5月追加取材)]