家と暮らしの物語

第三回 シンプルな構成が醸す、上質と気品

端整で清々しいコンクリートの外壁。影をつくり、潤いを添える木々や植栽。すーっと奥に伸びていく敷石のアプローチ。関山邸は、美術館と間違えられるというのも納得するような、気品と威風を備えた家である。

A : アプローチ横の木陰に佇む文人像。韓国のもの。

B : 白い敷石は玄関へと続く。小さな黒い御影石を張った部分は駐車スペースにもなる。

親世帯へと向かうアプローチ。

美術館を思わせるような外観

石を敷き詰めた広い前庭から、誘導するように白い敷石が続く。一角にあるカツラの木の横には、大きな石造りの文人像が佇む。正面には垂直と水平だけのラインで構成された、コンクリート打ち放しの建物。エントランスの奥に、緑の植栽も見える。

まるで美術館のよう――。思わず印象を口にすると、「じつは、通りすがりの人にそう訊ねられることも多いんですよ」と夫人。関山邸の竣工は2011年2月。暮らしはじめてから2年近くを経た住まいは、庭も建物も落ち着きを帯び、シャープな雰囲気を保ちながらもしっとりとした穏やかさを見せる。

400坪を超える敷地は、ご主人の実家に隣接する畑だった土地だ。離れた場所に住んでいた関山さん一家は、両親が高齢になり、またそれまでの住まいに区画整理がかかったことから、二世帯住宅での同居を考えたという。

建てるなら伊佐ホームズに決めていた、と夫人は語る。
「20年以上前から気になっていました。娘が小学校に行く道沿いに、素敵な家があるなぁと思っていたのが瀬田モデルハウス。義母も昔からよく知っていたそうですし、伊佐社長のお人柄にも惹かれました。他は全く考えませんでしたね」

中庭が生み出す、二世帯の適切な距離感

関山さん一家5人と両親、そしてそれまで両家で飼ってきた愛犬・愛猫たち。皆が暮らす家への要望は、次のようなものだった。まず、それぞれのプライバシーを保ちつつ互いの様子を感じられるように。そして人間だけでなく犬や猫にも快適に。料理好きな夫人のためにキッチンは広く。子どもたちのものや好きな食器などの収納部を多くとり、また、大勢のお客様が集まるにもよいように。敷地の両側に立つ工場と集合住宅からの視線をはずす必要もあった。

「そしてもうひとつ、コンクリート打ち放しにしたいというのが主人の希望でした。古い木造の家で育ち、小さい頃からずっと憧れていたそうなんです」

とはいえ、である。敷地面積は400坪を超えている。この家の場合、設計に制約はないというのに等しい。贅沢な悩みではあるが、別の難しさもあった。通常ならば、周辺環境や敷地などの諸問題を解決することが設計のよりどころになる。この家は何をテーマにするべきなのだろうか。

考えたあげく、出された結論はごくシンプルなものだった。「南に面して陽当たりの良い家をつくる」ということだ。

「ある意味、あたりまえですが、なかなか実現の難しいこの方針が出た時点でこの住宅のほとんどは決定したといえます」と設計者はいう。平面は中心に矩形の中庭を設けたコの字型、東西に細長い五層が連なっている構成として、コンクリートの構造も単純なかたちに。そのうえで、プライバシーや外部とのつながりがきめ細かく考えられた。

駐車場を兼ねた前庭は二世帯双方のエントランスに通じる。関山さん一家が暮らす子世帯は、多くのお客様もいちどきに使える広々とした玄関ホールを上がれば、吹き抜けのリビングがある。ここにはカクテルを学ぶ娘さんが、客人のために腕をふるうバーカウンターもある。このカウンターはふだんは扉を閉めて隠す。特別な日のためのサプライズな演出だ。

リビングとダイニングの間にはガラスの引き戸。上部は透明で、下部はドット柄のシートを貼ったグラデーションになっている。これは愛犬たちが客人の姿を見て騒がないよう目隠しするためだそうだ。

キッチンもまたたっぷりと広い。ガスとIHの2か所のコンロ、大きな埋め込み型オーブン、調理道具や食器をすべて隠せる収納など、充実の機能はプロの厨房さながら。「フレンチ系のおもてなし料理が得意」という夫人の腕がうかがえるようだ。こちらの棟は2階建て。上階には中庭を見下ろす、日当たりのいい子供室や寝室が並ぶ。

キッチンからコの字の短辺にあたる部分に進む。ここからはプライベートなゾーンだ。関山さん家族が過ごすセカンドリビングとコレクションの並ぶプレイルームがあり、扉を開けた先に両親が住む平屋の棟がある。

リビングは壁側の半分が吹き抜けとなっている。右手に中庭がある。
ダイニングとリビングを仕切るガラスはグラデーションになっている。犬の視線を防ぐ役割も。
キッチンはアイランド式。右手の収納家具の向こうがダイニングとなる。
リビングのキャビネット。シンプルなデザインで、収納力は抜群。
親世帯の庭。以前の雰囲気も踏襲した。
母上が自ら蛾の絵を描き加えた襖。

所在地:神奈川県

竣工年月:平成22年2月

延床面積:663.20m²(200.62坪)

構造:RC造2階建て

関連リンク:施工実例写真集『宿河原の家』

和の庭には、松やザクロの古木を配して

親世帯のリビングは建物南側の庭に面している。砂利とタイル、石だけで構成した中庭に対して、こちらは以前の家から運んだ松やザクロの古木など配した、どこかモダンな和の庭だ。木々や石の配置などはご主人の母上がひとつずつ庭師に指示したものだという。

「義母にはインテリアに関してもずいぶん相談にのってもらいました」と夫人。

母上は文雅に造詣が深く、表具師に頼んで和室の襖に手持ちの着物地を張るなど楽しんでいる。遊びが足りないと見たのか「銀色のボールペンを買ってきて、自分で蛾を書き足したのよ」と笑う。闇に浮かぶ松の木と、鱗粉をまき散らして舞う蛾の群れ。それは見事な作品に仕上がっていた。

親世帯では小ぶりの窓がいくつか中庭側に開かれている。子世帯からは、庭を通してさりげなく両親の気配を感じられる。それぞれに玄関やキッチン、浴室も持つ、独立した生活だが行き来はひんぱんだ。両親の毎晩の食事は夫人が親世帯に行ってつくる。月に数回は集まって関山さん宅の子供たちを含めた三世代で食卓を囲む。その距離感がちょうどよい。

「ああ、気持ちいい」といえる家

コンクリートと石と木と。3つの素材がつくり出すこの家の空気は清涼だ。
「うちにいらした方はなぜか皆、入ったとたんに、ああ気持ちいいって言ってくれるんですよ。そこに住んでいる私たちももちろん快適です」

ときには100人もの来客を集めるホームパーティでは、中庭にも多くの人が行き交う。庭には大きな石のベンチがある。夫人の実家の海の別荘にあった硯石を、なにかに使えないかと設計者に依頼した結果だ。「そうやって皆さんに使ってもらえる形で生かせたのはうれしいですね。ふだんもリビングから正面に見えて。窓辺の椅子に座り、誰もいない石だけの中庭を眺めて過ごすのも大好きです。なにか落ち着くんですよ」

そんな一見しただけでは気づかないような一つひとつの配慮が、日々の暮らしに喜びをもたらすと語る夫人。「秋には庭で、初めてのバーベキューパーティも」。住まいを楽しむ計画はこれからも次々とひろがっていく。